すっぽんりょうりだいいち
元禄元年(1688)、初代の近江屋定八が店を構え、以来、現在に至るまで18代、すっぽん料理一筋の大市。政界人・財界人・文化人・花形役者らがたびたび訪れ、志賀直哉『暗夜行路』、川端康成『古都』など、数々の文学作品にも登場しています。かつては京都の南の巨椋池のすっぽんを使っていましたが、時代が移り、今は浜名湖に大市専用の養殖プールを設け、独自の方法で4~5年かけて育てたこだわりのすっぽんのみを使用しています。すっぽんから出汁をとり、特製の酒・数種類ブレンドしたしょう油・生姜のみを使うシンプルな味付け。それだけに、わずかな火加減や調味料の違いで旨さが変わる。「作り方は昔から変わりませんが、どの素材も現代のもの。味付けや火から鍋を降ろすタイミングなど、常に研究を続けています」。代表取締役の青山佳生さんは、決して現状に甘えず、お客様の満足を満たすことに情熱を燃やし続けます。できたてのスープを味わい、肉を食べ、最後にスープで作った雑炊を食す。万人を唸らせるすっぽん料理は、これからも至高の道を重ね続けます。
メニューは、先付にすっぽんの肉のしぐれ煮、本料理のすっぽんの◯鍋、最後はスープで雑炊と香物、水物。コースはこの1種類のみ(24,000円/消費税・サービス料込み)。
◯鍋は、お客様に美味しく味わっていただくため2回に分けて出されます。運ばれてきたすっぽん鍋はグツグツと長く煮え立ち、濃厚なスープをいただいてから骨付きの肉を味わいます。
専用の土鍋は、長い歴史のなかで試行錯誤して職人と造るオリジナルのもの。いきなり料理に使用せず、まずは鍋自体に酒やダシを1カ月かけてなじませて鍋を育てます。なかにはその段階で割れて使用できなくなるものも。
左は使い始めて1カ月。真ん中は鍋の底がかなり溶けてきており、右は底が薄くなって割れたもの。100回ほど使うと鍋が徐々に溶けてしまうのだといいます。
調理場には、激しく炎が立ち、火花が舞います。
◯鍋は、下ごしらえしてから、土鍋に移してしっかりと炊き上げます。
すっぽんの身は柔らかく、豊富なゼラチン質をスープに溶かすため、コークスによる1,600度以上の火力で、2人前なら7~8分、大きくても10~15分で一気に炊き上げます。
2度炊き上げて、すっぽんをいただいたあとのコクとコラーゲンたっぷりになったスープで作る雑炊。餅を入れ、鶏卵でとじていただきます。グツグツと味が染み込んだお米はおこげも香ばしくて美味しい。お腹が満足するボリュームです。
2階は座敷席。中央の鴨居に掛けられた筆絵には、実際にこの部屋で鍋を囲んでいる様子が描かれており、ろうそくを灯しているのが時代をあらわしている。よく見ると、絵の中にも今もお店に飾られている大市の「大」が書かれた額も描き込まれおり、お店の歴史を垣間見ることができます。
「奥三の間」。相当の年月を経たであろう巨大な松の一枚板の天井や、樹齢300年といわれる南天の木で作られた違い棚の柱などがあります。
「六畳の間」は、以前は三井・住友両家の専用の部屋だった。他と比べて部屋全体が一段高く作られています。
「口四の間」は、庭が美しく見える一室。「六畳の間」とともに映画『古都』のロケーションに使われ、部屋には川端康成直筆の書が飾られています。
竹を随所にあしらった「口三の間」。外廊下から入るため、離れのような風情が楽しめます。
玄関をくぐると靴を脱いで室内へ。季節の華やかなおもてなしでお出迎え。
食事をする奥の部屋は、昭和に増築した建物ですが、表側は創業以来の建物で約340年の歴史があります。格子や柱には江戸時代につけられた刀疵が残されています。創業初期には大名屋敷への仕出しや店での煮売りもしていたそうで、近隣の人々が鍋を抱えてすっぽんを買いに来ていたそうです。
歴史上の偉人も含め、数え切れないほど多くの人が上り下りしたであろう階段。虫食いの景色が特徴的で、その様子が志賀直哉『暗夜行路』にも記されています。
代表取締役・青山佳生さんは18代目。「先輩から技術を教えられましたが、お客様のお声をもとに考えることも多いです。お客様によろこんでいただくために、しょう油の1滴、火から上げるタイミングの数秒まで、日々試行錯誤を繰り返しベストなお料理を提供しています」。
すっぽん料理大市までのアクセス
http://www.suppon-daiichi.com
所在地 | 京都市上京区下長者町通千本西入ル六番町 |
TEL | 075-461-1775 |
営業時間 | 12:00~13:00、17:00~19:30(要予約) 火曜休 |
アクセス | 市バス206系統など「千本出水停」下車 徒歩約5分 |