なごみ10月号「老舗の京料理」 取材こぼれ話
月刊誌『なごみ』の「老舗の京料理」は、実はおよそ半世紀にわたる長寿企画。毎号、京都の名店の妙技を余すところなく披露くださいます。取材中には、取材スタッフだけで留めておくには惜しい話もお聞きし、ここではそんな実りあるこぼれ話をご紹介いたします。
10月号の誌面を飾るのは、宇治川畔に店を構える辰巳屋です。
辰巳屋は1840年創業の茶問屋に始まり、料理旅館を経て、料亭を営まれるようになりました。取材にうかがったのは、夏の盛りの8月中旬。盂蘭盆(うらぼん)のただ中でしたが、8代目当主の左聡一郎さんにご用意いただいた料理のお蔭で、撮影現場は秋の気配に満ちていました。
今回の取材こぼれ話はこちら。
☝今月の器選びのポイントは?
☝今月の献立について
☝辰巳屋の最新ニュース
「器はフィーリングで選び、器を見て料理のイメージを膨らませます」
お話をうかがった8代目当主の左聡一郎さん
10月号のお話をいただいてから、まず取り掛かったのは器選びです。私は基本的に器を決めてから献立、盛り付けへと考えを進めていくタイプで、今回は秋らしい色味の葉皿を八寸に使い、それに三島手(お造り)、土もの(小鍋)を合わせました。
どの器を使うかは、その時のフィーリングで決めています。今回は全体的に温かみのある取り合わせを意識しましたが、葉皿は絵的に変化をもたらし、それが私の個性につながっているかもしれません。
温かみのある器といえば、土ものですが、私は個人的に土ものが大好きで、道具屋さんで気に入ったものがあれば手に入れています。
秋は食材が豊富ですので、いろんな料理がつくれますね。今回は魚を何にするかを決めるところから始め、魳(八寸)と鯛(向付)、そしてこの時期に外せない鱧を使うことにしました。鱧は松茸とともに小鍋仕立てにしましたが、鱧松茸はお客様が毎年楽しみにしておられる料理。定番の味は、長年にわたって多くの方が美味しいと感じてこられた証ですね。
10月号の料理
向付
八寸
小鍋
私どもの最近のニュースといえば、今年1月に京都府宇治市に鰻料理店「うなぎ和佐」をオープンしたことですね。「和佐」は料理屋の礎を築いた祖母の名に因んでいます。祖母は地元の祭りがあると鰻のかば焼きを焼いて、賑わいを呼び込んでいました。鰻とは不思議と縁があり、私の父は京都の鰻の名店で修業をしています。昼の「宇治丸弁当」につく鰻の印籠煮は、いつしか名物となってご賞味いただいております。
かねて鰻料理店を始めようと思っていましたが、今年ようやく念願が叶い、ほっとしています。辰巳屋は宇治に根差した料理を大切にする料亭で、今年オープンした鰻料理店も、その考えを引き継ぐ店を目指しています。
『なごみ10月号』の誌面はこちら。月刊誌『なごみ』は全国書店または淡交社のオンラインストアでお買い求めいただけます。